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Feb.

2023

ベンダー依存がなぜDXを阻害するのか

TEXT BY

山﨑 慎也

ITベンダー依存が、なぜDXを阻害するのか

日本企業情報システム開発・導入をITベンダーに外注するケースが多い。してITベンダーへの依存度が高いことがDX(デジタル・トランスフォーメーション)を妨げる要因の一つになっていると指摘する意見があるこれはどういうことだろうか。 

「ITベンダー依存体質」の日本企業

図1に日米のユーザー企業によるソフトウェア投資の比率示した。パッケージソフトを導入するケース、ITベンダーへ開発を委託するケース(委託開発に分類すると米国ではパッケージソフトの割合が多く6割を占める。一方、日本においては委託開発、すなわち外注開発を委託する割合9割近くを占めている。

次に、IT人材の所属先企業を比較してみ。情報処理推進機構(IPA)の過去調査資料によると、日本ではIT人材の72%がベンダー企業に属しており、諸外国と比較しても突出した割合となっている(2)。情報が少し古く、この傾向は緩和されている可能性はあるものの、ベンダーIT人材が偏っており、ユーザー企業側では少数といえる。 

最後に、IT投資に対する目的意識を比較してみる。電子情報技術産業協会(JEITA)の調査結果よると「米国企業の多くが外部環境把握に IT 予算を投じているのに対して、日本企業はいまだ IT 予算の大半が社内の業務改善に振り分けられている」と報告している図3つまり、日本企業にとってのIT投資は、業務の効率化やコスト削減といった「守り」意味合いが大きい。「業務量増加に伴う人件費増を抑制するために、IT投資することが目的だIT人材の観点とすると、社内のIT人件費を抑制するが外部委託している捉えることができる 

以上の現状を踏まえると、「IT投資は『守り』の機能中心社内IT人材は少数で外部業者依存している」という見方ができる。さらに問題だと思われるのは、「攻め」のIT投資に対する意識が低い傾向にあることだ。顧客に提供する価値を高めて事業競争力を向上するためIT投資に対する優先度低いと言える。 

デジタル変革を妨げる「ベンダー依存体質」

では、なぜこの状況が日本企業のデジタル変革を妨げているといえるのか。ポイントは3点あると考えられる。 

1.事業モデル変革の阻害
市場環境が目まぐるしく変化するVUCA時代では、既存事業の改善や新規事業の立上げを迅速に進めることが重要だ。情報システムにも迅速な対応が求められる。ITベンダーの役割は、委託された機能をきちんとつくり上げることであり、事業モデルのあるべき姿を提案・共同検討することではない。事業を早く立ち上げるために「簡易機能を実現してまず試そう」といった提案をするモチベーションも大きくない(将来的に大きな開発案件が想定される場合は例外だが)。ITの検討や実装が遅れると、事業モデルの変革に影響が及ぶ。 

 2.業務改革の阻害
現行の業務に合わせるようにシステム開発を続けると、業務が非効率であっても、そのままシステム化が進むことになる。本来であれば、業務上の無駄を排除するなどの考慮をすべきだが、ベンダーからすると開発量の多い方が高収益となるため、敢えて機能を削減する提案をする必要はない。結果として、業務の効率化が進まず、開発費も余分に支払うことになる。 

 3.人材育成の阻害
ベンダーから知恵をもらうのは良いとしても、社内におけるIT人材の強化は必要なはずだ。だが、十分なIT教育が行われているケースは少ないようだ。外注費はベンダーに対する教育費となり、社内でのIT人材の育成は進まない。中長期的な視点で採用・育成計画を定め、「IT人材の内製化」を進めていかない限り、社員のデジタル感度は永久に向上しない。 

「ベンダー依存」からの脱却に向けて何をすべきか

では、その状況から脱却するために何をすべきなのだろうか。 

1.IT投資に対する意識変革 
多くの日本企業は、IT投資を業務の効率化やコスト削減などの「守り」の側面として捉える傾向にある。だが、事業成長を目指すためには、事業モデルの変革や製品・サービスの強化といった「攻め」のIT投資を検討すべきだ。そして、事業とITの両方の側面で考えられる人材を社内で育成すべきだ。実際に、ファーストリテイリングや良品計画など、顧客の行動変容が激しい企業においては、市場の変化に対応すべく開発組織の内製化に舵を切り始めている。ITをコストとして捉えるのではなく、将来への投資と考えなければならない。 

 2.IT人材の内製化 
IT人材育成の仕組み化も必須となる。その前提として、自社で必要となるIT人材像を明確にしておきたい。キリンホールディングスでは、優先して強化すべき能力を、「事業の課題を見つけ出し、ICTを活用した課題解決策を企画・設計し推進」と定め、その職種を「ビジネスアーキテクト」と定義している。そのうえで、ビジネスアーキテクト育成に向けて「キリンDX道場」を開講し、白帯、黒帯、師範の3段階でプログラムを用意し、人材内製化に向けたデジタル感度の底上げを図っている。 

 3.システム開発・導入の内製化
最近は、ノーコード、ローコードの開発ツールを活用し、自社でシステム開発を行うユーザー企業も増えてきた。日清ホールディングスでは、サイボウズの「kintone」やマイクロソフトの「Power Platform」といったローコードのツールを活用し、業務上必要なアプリを内製化する取り組みを始めている。成果として、書類の承認期間を4分の1に短縮することに成功している。こういった取り組みは社員のデジタル感度を高めることに寄与する。 

終わりに

変化の激しい時代で生き残るためには、事業モデルの変革や業務改革は必須であり、それを実現する攻めのIT投資は避けて通れない。事業開発のリードタイムを短縮するためには、ビジネス側の検討をすぐにITに反映することが求められる。 

ITの検討に外部の力を借りることが悪いわけではなく、ITの活用方法を自社内で考える能力が不足することが問題だ。自社の現状に鑑みて、DX推進が遅れていると考えられる場合には、本稿をご活用頂けると幸いである。 
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